割増賃金計算の基礎となる賃金について

※本記事はあくまで参考として私見あるいは過去の経験から記載したものであり、実務運用においては、個々の事案ごとに必要に応じて弁護士等の専門家または所轄行政への確認を行うなどの対応をお願いします。

労働基準監督署に勤務しているときに、割増賃金(残業代)の計算方法についての問い合わせが時々ありました。ごくごく当たり前のことのようですが、時々落とし穴に落ちることもありますので、月給者の割増賃金計算の基礎となる「時間割賃金」について、コメントしたいと思います。

月給から割増賃金を計算する場合の基礎となる額は、月給を月の所定労働時間数で割った金額が割増賃金の計算の基礎となります。
(本稿では時間割賃金と呼称します)

【例1】1日8時間・月20日勤務・月給32万円の場合
 ・月の所定労働時間数 = 8時間 × 20日 = 160時間
 ・時間割賃金 = 320,000 ÷ 160 = 2,000円

月で労働時間が決まっている場合は上記のとおりですが、月によって所定労働時間数が異なる場合、例えば、ゴールデンウィーク、夏季休暇、年末年始休暇が設定されていて、月ごとの所定労働時間数が一定でない場合などでは、「1年間における1ヶ月の平均所定労働時間数」で割ることとなります。

【例2】1日8時間・年間労働日数240日・月給32万円の場合
 ・1ヶ月平均所定労働時間 = 8時間 × 240日 ÷ 12ヶ月 = 160時間
 ・時間割賃金 = 320,000 ÷ 160 = 2,000円

上記「例2」のように、年間労働日数が設定されている場合、月ごとに所定労働日数が違っていても、時間割賃金は変動させないこととなります。

ある年度における計算方法は以上のとおりなのですが、注意しなければならないのは年度により1ヶ月平均所定労働時間数に変動がないか、という点です。

就業規則等における年間所定労働日数の定め方について、以下のような記載がよく見られますが、それにより毎年の残業代計算方法を変更しなければならない可能性があります。

 1 年間の「日数」を定めている場合
  1-1) 年間の「所定労働日数」を定めている場合 
   (記載例) 年間の所定労働日数は240日とし、具体的な所定労働日は年度ごとに定める。
  1-2) 年間の「休日日数」を定めている場合
   (記載例) 年間の休日日数は125日とし、具体的な休日配置は年度ごとに定める。
 2 休日となる日を定めている場合
   (例) 休日は以下のとおりとする。
    ・日曜日、・土曜日、・国民の祝日、夏季休暇3日、年末年始(12月29日~1月3日)

簡単なのは、1-1)です。これだと、例2のとおり、1ヶ月平均所定労働時間は160時間で、毎年一定となります。

1-2)については、うるう年以外は例2のとおりとなるのですが、うるう年には以下のような計算となります。

【例3】1日8時間・年間休日日数125日・月給32万円でうるう年の場合
 ・1ヶ月平均所定労働時間 = 8時間 × (366日-125日) ÷ 12ヶ月
              = 160.66…時間
 ・時間割賃金 = 320,000 ÷ 160.6 = 1992.528…円
   ※端数処理については別に定めがありますが一旦捨象します

もちろん、例3において、時間割賃金を1,993円より有利な2,000円として計算することは、労基法上問題となるものではないと思われます。

注意が必要なのは、2です。この場合は、毎年度のカレンダーにより、年間労働日数および年間休日日数が決まるので、毎年度ごとに1ヶ月平均所定労働時間の確認を行わなければならないことになります。

以上を踏まえた上で、実務的に注意しなければならないのは、就業規則の中の年間所定労働日数の書き方と時間割賃金の算式の整合性です。

規則上、時間割賃金について、「基本賃金を160で割った金額とする」というように、時間数を書き込んでいる例が見られます。
これだと、上記2の毎年のカレンダーにより1ヶ月平均所定労働時間数が変動する場合には、毎年数字を変更する必要があります。

万が一、時間数の確認を行わず、ずっと同じ数字で残業代を計算していた場合には、賃金の遡及清算・追加支払いが必要となる可能性もあります。

毎年の労働時間チェックと残業代計算の整合性には、十分にご注意ください。

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