「定額時間外手当」について

※本記事はあくまで参考として私見あるいは過去の経験から記載したものであり、実務運用においては、個々の事案ごとに必要に応じて弁護士等の専門家または所轄行政への確認を行うなどの対応をお願いします。

労働基準監督署に勤務しているときに、いわゆる「定額時間外手当」(「固定残業代」「みなし残業代」など)と呼ばれる取扱いについて、ご質問を受けたことがあります。いくつかの点についてコメントしたいと思います。

1 時々誤解されているが「実は固定ではない」ということ

「固定残業代」という名前で呼ばれることもあるようですが、実は完全に固定というわけではありません。
基本賃金(残業代を計算する基礎賃金という意味です)と定額時間外手当という給与項目の場合、基本賃金とその月の残業時間を計算して残業代を算出した際に、その算出された額が定額時間外手当を上回っていたら、固定残業代との差額を支払わなければなりません。一方で、下回る際は、固定残業代を支払うこととなります。
 A)残業時間から計算した残業代 > 定額時間外手当
 ⇒ 計算した残業代の額を支払う必要がある(労基法で定める計算額以上)
 B)残業時間から計算した残業代 < 定額時間外手当
 ⇒ 定額時間外手当を支払うこととなる(各社規則による)

従って、毎月一定額以上の残業代の支払いを約束するのがこの「定額時間外手当」制度で、基本賃金と合わせ、月々定額で支払う額を多く見せることができるので、求人の際に有利になる(高い金額で目を引ける)ことがメリットでしょう。
また、社員が「設定された時間数より少ない残業時間で済めば得をする」と思って仕事をするようになれば生産性向上につながります。
しかし、「サービス残業のツール」にはなりません。上記Aに違反して定額時間外手当のみの支払いで済ませると労基法違反となります。

2 労働基準法には、特に時間数については書いていない

固定残業代の設定時間数は何時間までよいか、ということについて、労基法には全く定めがありません。もちろん36協定の上限時間があるので、一般的にはその兼ね合いはあると思いますが、36協定の上限が45時間だとしても50時間分の固定残業代として設定することは労基法上は問題ないと回答していました(実際に支払う必要がある残業代(例:45時間分)より多く払うので労基法違反にはならないという趣旨です)。

3 どうやらトラブルも多いらしく、募集・採用時に注意が必要

ということで、労基法上は、時間ではなく計算された残業代との比較で考えることになるので、例えば「定額時間外手当は月額3万円」と決めてもよいことになります。

一方で、1で申し上げたように、「定額で月々支払う額を多く見せることで求人の際に有利になる」反面、その条件をめぐる採用後のトラブルも多いようで、ハローワークでは、求人票等の書き方に関し、末尾(※)の指導をしていると聞きます。制度導入の際には、そちらにもご注意ください。
私見ですが、最低限以下のような記述が必要かと思います。
   「定額時間外手当 月額3万円(平日残業で約〇時間相当)」

定額時間外手当制は、必ずしもメリットばかりではないので、導入の目的をよく整理して、正しい運用を確立してから導入することがお勧めします。

【末尾(※)】
ハローワークリーフレット「固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。」より

固定残業代制を採用する場合は、募集要項や求人票などに、次の①~③の内容すべてを明示してください。
① 固定残業代を除いた基本給の額
② 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
③ 固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨

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