ジョブ型雇用について(その1)

大手グローバル企業の中にジョブ型雇用を取り入れるという動きが活発になってきています。

政府も、新しい資本主義実現会議で「2023年6月までに労働移動の円滑化のための指針を取りまとめる」、という方針を出したところであり、一層ジョブ型雇用への関心が高まっています。

一方で、ジョブ型雇用とは何であるか、ということについて、コンサルティングファームや識者によって見解に差がみられ、共通の議論の土台の整理がまだできていない面もあるように感じます。

2023年6月の指針発表後に、その指針を踏まえて各方面で議論が活発化すると思われますが、現時点で、私なりに顧客との間で論点となるであろうと思う点について、いくつか挙げておきたいと思います。

〇ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用
ジョブ型雇用対比される概念は、メンバーシップ型雇用です。

ジョブ型雇用は、仕事(職務)ありきなので、その仕事ができる人を社内外からアサインすることとなります。給与体系については、職務に着目することから、採用マーケットでの水準をにらんだ「職務給」になることが自然だと考えます。

メンバーシップ型雇用は、人(能力、ポテンシャル)ありきの採用なので、必ずしも経験を必要とせず、新卒一括で採用し、職務を通じて育成していくことが主体となります。
能力に着目しているので、給与体系は「職能給」の体系を取ることが多いと思われます。

大前提として、上記のとおり、ジョブ型・メンバーシップ型は、「雇用形態の型」であって「給与の型」ではなく、雇用形態からの結果として、(採用マーケットの水準での)職務給がなじむということだと私は考えています。

〇解雇がしやすいか
仕事(職務)ありきでの労働契約なので、ジョブ型雇用では、社員がその職務を果たせない場合、他の職務に配置転換することを前提としておらず解雇が比較的容易である、という論がみられます。

しかし、実際の実務運用においては、パフォーマンス不足の場合には、改善勧告(あるいは指導)して向上がなければ、退職勧奨を行って労働契約を合意解約するのが、その後のトラブル回避のためには妥当であり、現時点では「解雇できる」あるいは「解雇がしやすい」とは考えない方がよいと思います(※後述)。

〇終身雇用ではなくなるのか
ジョブ型雇用と終身雇用との関係について、「終身雇用のデメリットを回避するためにジョブ型雇用に切り替えるべき」とする論もありますが、少なくとも現時点ではそのように理解しない方がよいと私は考えます。

労働契約の期間については、労働基準法に定めがあり、その制約の範囲で有期契約にはできますが、いわゆる正社員として採用する場合は、定年までの無期雇用ということになります。

定年年齢については、高年齢者雇用安定法に60歳以上と定められているので、ジョブ型雇用が終身雇用ではないとする説は、先述の解雇がしやすくなるかどうか、という議論に収れんするのではないかと思います。

〇新卒採用者のスキルアップと育成
ジョブ型雇用が進むとすると、個々人のスキルアップ、リスキリングが必要となります。

社会人は、これまで以上に意識を高くしてスキルアップすることが求められるとして、新規学卒者は、学校を卒業して社会に出るタイミングで、職務を遂行するスキルがあるか、という点が問われるという論があります。

大学など学校教育が、よりスキルを習得する方向に見直される必要が出てくるようにも思いますし、大学生・高校生は早い時期に目標を決め、在学中から将来のキャリアを考えてスキルを身につけていかなければならなくなるかもしれません。

そうなるとキャリアコンサルタントの出番も増えるように思います。

〇ジョブ型雇用のメリットを活かすために
ジョブ型雇用は打ち出の小づちではないものの、企業によっては閉塞感を打破し生産性を高める上で有効な施策となり得る可能性があると思います。

個別企業での導入においては、課題の洗い出しとその解決方法を検討する中で、ジョブ型雇用の考え方がうまくはまるのか、メリット・デメリットを検証して行うものであると考えます。

ジョブ型雇用については、他にも様々な論点や考え方があると思いますので、今後もこの場で整理していきたいと考えております。

 

(追記)
感傷的な話をすると、大学教育が職業訓練の方向に大きく傾斜するのは、少し寂しいことだな、とも感じます。
学問の府である大学での高等教育が、ややもすれば社会で役立つ実学から乖離しているという批判はときどき聞くところですが、一般教養として非実学を身につけることも高等教育では大事なことだと感じますし、何より学生時代は興味のあることに自由に打ち込む時期であってよいのではないかと思います。
田舎の大学で好きなことを4年間やってきました、という牧歌的だが原石のような学生がいなくなって、いつかノスタルジーを感じることになるのでしょうか。

 

※解雇について
労働契約法に、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、無効であるとあります。従って、私は法律家ではないので断定的には言えませんが、ジョブ型雇用社員を解雇した場合も、その有効性を争う訴訟になった際には、「客観的に合理的な理由」や「社会通念上相当」かどうかが争点になるのではないかと考えます。すなわち、「ジョブ型であれば簡単に解雇できる」のではなく、少なくとも今のところは、「ジョブ型の雇用契約であることが考慮され解雇が訴訟の場において認められやすくなる可能性がある」という範囲を出ないのではないかと思います。

従って、コンサルティングを行う側としては、現時点では、ときどき見かける「ジョブ型は解雇できる」というような論説によらず、判例等が確立するまでの間は、これまで同様、解雇には制約があるものとして、慎重に考える方がよいと思う、と申し上げるところです。

一方で、2022年4月、厚生労働省で「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会報告書」が取りまとめられており、この面での動きが今後あるのかも注視したいと思います。

 

(本コラムの内容はあくまで私見ですので、実務運用にあたっては、必要に応じて専門家もしくは管轄行政にお問い合わせ下さい)

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